2025年4月、日本が世界に向けて開催する国際的イベント「大阪・関西万博」が開幕を迎えました。この万博は、国内外から多くの関心を集め、最新技術や文化交流の場として大きな期待が寄せられています。
しかし、その一方で、表面には見えにくい「サイバー攻撃」という深刻なリスクが潜んでいることも忘れてはなりません。近年、国家間の対立がサイバー空間にまで波及し、とくに国際イベントがその標的となるケースが増加しています。大阪万博もまた、そうした攻撃のリスクにさらされているのです。
本記事では、地政学的リスクとは何か、なぜ国際イベントがサイバー攻撃の対象になるのか、そして大阪万博における具体的な脅威と、私たち一人ひとりができる備えについて、わかりやすく解説します。
国家間の対立がサイバー空間にどのような影響を及ぼすのか。まずは「地政学的リスク」の基本的な概念と、サイバーセキュリティとの関連性について整理しましょう。
「地政学的リスク」とは、地理的・政治的な要因により、国家間での対立や緊張が高まることで生じる、様々なリスクを指します。たとえば、国境をめぐる争いや、軍事的な緊張、経済制裁、外交関係の悪化などがこれに該当します。
近年では、こうした対立が単に外交や軍事の場面にとどまらず、サイバー空間にも拡大していることが特徴です。国家が他国の政府機関やインフラ、企業に対してサイバー攻撃を行うことで、情報漏洩やシステム機能の停止、社会的混乱などを引き起こす事例が後を絶ちません。
ロシアによるウクライナ侵攻の際には、地上戦と並行してサイバー攻撃が行われており、ウクライナ国内の通信網や電力インフラが深刻な被害を受けた、と言われています。
このように、サイバー空間は、陸、海、空、宇宙に続く「第5の戦場」とも呼ばれ、地政学的な緊張の新たな舞台となっているのです。
現在、世界各地でさまざまな地政学的リスクによる脅威が、同時多発的に発生しています。米中間の技術覇権争い、台湾海峡をめぐる軍事的緊張、北朝鮮によるミサイル発射やサイバー攻撃、イスラエルと周辺国との対立など、国際情勢は非常に不安定な状況にあります。
こうした情勢の中で、国家主導あるいは国家の支援を受けたと見られるサイバー攻撃が頻発しており、日本もその対象となり得る立場にあります。
とくに、国際的なイベントの開催国は注目度が高く、国家の威信をかけた場であるため、攻撃対象として狙われやすいという側面があります。
独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が毎年発表する「情報セキュリティ10大脅威」においても、2025年版で初めて「地政学的リスクに起因するサイバー攻撃」がランクインしました。
これは、政治的・外交的な要素がITセキュリティに及ぼす影響の深刻さを社会全体で認識し、官民を問わず幅広い対応が必要であるという強い警鐘といえるでしょう。
では、なぜオリンピックや万博のような大規模な国際イベントは、サイバー攻撃の対象になりやすいのでしょうか。
その背景には、以下の要因があげられます。
国際的なイベントは、各国のメディアが大きく報道し、世界中の人々の関心が集まります。そのため、こうしたイベントに対して攻撃を行うことで、攻撃者は短時間で広範囲にインパクトを与えることが可能になります。
たとえば、2021年の東京オリンピックでは、関係機関に対する標的型メールやフィッシング攻撃が数多く発生しました。こうした攻撃の目的は、イベント自体の混乱を引き起こし、開催国の信用を傷つけることにあります。
また、国際イベントでは、多数の来場者や関係者が一斉に移動・通信を行うため、電力・交通・通信といった社会インフラへの依存が非常に高まります。このような状況下でインフラに対するサイバー攻撃が行われると、イベントの運営に深刻な支障が生じるだけでなく、パニックの発生や安全確保の困難といった二次被害が生まれる可能性があります。
たとえば、電車の運行情報が改ざんされたり、報道機関のサイトが閲覧不能になるだけでも、情報の錯綜と混乱を招くことは容易に想像できます。
2025年4月に開幕した大阪・関西万博も、例外ではありません。日本が世界に誇る一大イベントであるからこそ、サイバー攻撃の格好の標的となる可能性があります。
大阪万博でも、以下のようなサイバー攻撃が想定されます。
・DDoS攻撃(分散型サービス妨害)
:公式サイトやチケット販売システムに対するアクセス集中により、システム障害を引き起こす。
・情報改ざん
:来場者向けの案内情報や交通情報の改ざんによって、混乱を誘発する。
・フェイクニュースの拡散
:SNS等を活用した虚偽情報の拡散により、社会的不安や混乱を生じさせる。
・マルウェアの感染拡大
:運営関係者や協賛企業を狙った標的型メールを通じて、業務用端末にマルウェアを感染させ、情報漏洩や業務妨害を狙う。
これらの攻撃が現実に発生した場合、万博運営への影響はもちろん、国家としての日本の信頼や国際的評価に大きなダメージを与えるおそれがあります。
とくに海外からの訪問者にとって、安全性の懸念が高まれば観光やビジネスにも影響を及ぼし、経済的な損失が生まれる可能性も否定できません。また、攻撃対象となった官公庁や企業にとっては、業務停止や情報漏洩に伴う損害賠償のリスクも発生します。
「国家レベルの攻撃」と聞くと、自分には関係のない話のように思えるかもしれません。しかし、実際には個人や企業のセキュリティの隙を突かれることも多く、決して他人事ではないのです。
まず基本として、私たち一人ひとりが、サイバーセキュリティに対する正しい知識と意識を持つことが重要です。
・セキュリティソフトを導入する。
・OSやアプリを常に最新の状態に保つ。
・不審なメールやリンクには注意する。
・パスワードは使い回さず、強固なものを使用する。
といった基本的な対策を徹底することが、攻撃の被害を最小限に抑える鍵となります。
とくにイベント期間中は、SNSやネット掲示板を通じて偽の情報が拡散されることがあります。混乱を回避するためにも、公式情報や信頼できるニュースソースを確認し、情報の真偽を見極めるリテラシーを持つことが求められます。
サイバー攻撃に限らず、緊急事態が発生した際に正確な情報を迅速に取得できるかどうかが、安全確保の鍵となります。自治体や関係機関の公式SNSアカウントをフォローする、複数の情報源を確認するなど、日頃から情報収集の習慣をつけておくことが大切です。
地政学的リスクの高まりとともに、サイバー攻撃の脅威も複雑化・深刻化しています。大阪・関西万博のような国際イベントは、サイバー攻撃者にとっても注目度の高い格好の標的です。
だからこそ、運営側だけでなく、私たち一人ひとりがサイバー攻撃に対する備えを意識し、日頃からサイバーリテラシーを高めることが求められます。
国際イベントの成功と安全を支えるのは、技術や警備体制だけではなく、社会全体での「情報との向き合い方」です。正しい知識を持ち、冷静な判断を下せるよう、今から準備を始めましょう。